めぐりめぐる。

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コーヒーと目立ちたがり屋の僕とマスダ君、という話

お昼休みにコーヒーを飲んで読書をしていると、僕は高校時代を思いだす。当時(今でもそうだと思うけど)物凄く目立ちたがりやだった僕は、楽器が引けてバンド演奏ができるわけでもないし、頭もそんなに良くなかったし、スポーツが人並み以上にできるわけでもなく、女の子にもモテなかったから、何とかして自分の存在をクラスの皆にアッピールしたい欲求にかられていた。

 

教室の隅っこで本を読んでることが多かったから、何とかして目立とうと思った結果、お昼休みにコーヒーをドリップして優雅な昼休みを演出している自分に酔うことにした。僕の心の中では「コーヒーが飲みたいからコーヒーを入れているんだ!」と自分を納得させていたが、ほとんど目立ちたい一心だったと思う。今思えば猛烈に恥ずかしいが。

 

家で沸かしたお湯を保温できる水筒に入れて毎日持参し、お昼休みに弁当を食べ終わると僕は徐ろにインスタントコーヒーを紙コップに入れ、お湯を注ぎ、コーヒーをじっくり淹れた。教室中にコーヒーの匂いが蔓延し、好意的な反応も多少あったが「あいつ何やってんだ」とシラけた顔で見られていたことを皆様に白状致します。

 

ある日コーヒーを飲みながら本を読んでいると、学年でヤンキーとして有名だったマスダ君が僕の席の前にやってきた。「俺にもコーヒー飲ませてくれよ」と彼は言ったので、僕は快くいいよと返事をした。マスダ君は厳ついタイプの身体つきではなく、細身で髪の毛がボサボサで天然パーマに近いような髪型をしていて、何というか可愛らしい感じの不良だった。制服を着たままタバコを吸うせいでいつもヤニ臭く、女の子からは煙たがれ、教師からは目をつけられていたけど、彼はそんなことはちっとも気にしていない様子だった。

 

マスダ君は不良というには随分と澄んだ綺麗な目をしていた。タバコは大好きだったけれど、決して学校では吸おうとしなかった。彼が学校で人を殴ったという話も聞かないし、教師に歯向かって教室を出て行くことはなかったし、母校に違う学校のヤンキーが押し寄せてくることもなかった。なぜ彼がそんな風に周りから扱われているのか不思議だったが、僕は何も言わないことにした。きっと彼も同じようなことを感じていると思ったからだ。

 

僕は彼にいろいろな本を勧めた。村上春樹と浅田次郎がマスダ君のお気に入りとなり、コーヒーを飲みながらお昼に一緒に読書することが日課になった。コーヒーを飲むとタバコを吸いたくなるらしく、時々持っているプリッツを煙草に見立てて吸ったり、マカダミアナッツを大量に口に入れて我慢しているのは面白可笑しかった。

 

やがて彼は1日に1冊くらいのペースで本を読む読書家になった。「読後感を大事にしたいからよ、一日一冊まで」というのが彼のモットーとなった。煙草と同じで、余韻を楽しむべきなんだねと僕が言うと、彼は笑って同意した。

 

体型が細身で目立たない僕と、クラスのヤンキーが昼にコーヒーを飲んでいるというのが噂になり、違うクラスから人が様子を見に来ることもあって随分と恥ずかしいと思いをした。妙な行為と妙な組み合わせが話題になったらしい。

 

さて、こうして僕の目立ちたいという自尊心は満たされたというお話なのだが、現在25歳、高校の同窓会の連絡は一度も来ていない。僕は存在していたのに。僕という存在がなかったことにされたか、もしくは呼ぶと面倒くさいから誘うのを辞めたのか。真相は闇の中だ。

 

マスダ君、このブログを読んでいたら連絡をしてください。2人でプチ同窓会をやろう。コーヒーと村上春樹を用意しておくから。