めぐりめぐる。

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【落語】大晦日にしんみりと聴く「芝浜」という話

 

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大晦日ですね。年が変わる、除夜の鐘が鳴る。人々が寒空の下で、新しい年に期待をしながら外を歩いている様子を見ていると、僕はいつもこの落語を思い出します。タイトルにもあります「芝浜」というお話ですね。「芝浜」は夫婦の愛情を描いた人情たっぷりの素晴らしい作品です。むかーしにね、三題噺という趣のある芸があってね。寄席に来てくれたお客さんから3つお題を頂いて、即興で落語を作るという技があった。ある日のテーマが「酔漢」と「財布」と「芝浜」だったことで出来上がったのが、本日紹介する落語なんですが、長い時間様々な落語家がこの噺を語り継いでいったことでとても趣のあるお噺に仕上がっています。いい話だよね。巡り巡って現代に語り継がれる。江戸時代から何百年も民衆に親しまれ、現代まで生き続ける芸ってのは素晴らしいよ。あ、話が逸れたのであらすじを語りましょうか。

 

「芝浜のあらすじ」

むかーしむかしある所に行商の男がいたんだけど、こいつがあまり働かない奴で酒ばかり飲み、嫁さんをいつも困らせていた。もう釜の蓋もあかないって言うので、嫁さんがうるさく旦那に仕事を行くことをお願いし、ようやく旦那が仕事に行った。旦那は魚屋だったので芝の市場に行くんだけど、とても朝はやく家を出たもんだから、誰もいない。こりゃ商売にならないっていうんで、浜で顔を洗って煙草をふかしていると、財布を見つける。中には大金が入っていた。大金が入った旦那は「こりゃ儲けもんだ、またしばらく酒が飲める」と騒ぎ、近くにいる友達をたくさん呼んでどんちゃん騒ぎ。

 

旦那が呑んだくれて、翌朝起きると妻からこんなことを言われる。「昨日の支払いどうするの?」話を聞くとお金なんか無いと言う。昨日拾った財布なんて知らないよ、あんた夢でも見たんじゃないの?」と。顔面蒼白になった旦那は、やっちまった、死のうと思うが、妻に止められる。「頑張って働けば、返せるよ。心を入れ替えて、働こう。」

 

それからというもの、旦那は心をいれかえて、酒も飲まずに人が変わったように働いた。3年働くうちに、自分の店を開けるようになった。立派なもんだ。大晦日、雪が降ってきて除夜の鐘が百八つ鳴る。ああ、働いたな。旦那がそう思っていると、妻から急にある事実を打ち明けられる。話を聞いてみると、どうも3年前に拾った財布は実はずっと隠していた、旦那がまた呑んだくれて駄目になってしまうと思ったから、怒られると思ったけど、でもあなたと一緒に頑張って生きたかったから...。

 

旦那は驚き、怒るが、嫁の深い愛情に心を打たれ、自分を真っ当な人間にしてくれたことに感謝の言葉を述べる。妻は言う。「ずっと頑張ってきたんだから、今日ぐらいお酒を呑んだら?」男は喜び、お猪口を持って酒を飲もうとするが、ふと考えなおす。

 

「いや、辞めとこう。また夢になるかもしれない」

 

感慨深い人情噺

とても客から3つのお題をもらい、即興で作ったとは思えない落語ですね。この落語の一番印象深いシーンは、旦那が真っ当に働き、ようやく自分の店が持てるようになった、駄目だった頃の自分と決別してから3年後の大晦日、雪がしんしんと降る様子を妻と眺め、百八つの鐘が鳴るのを聞く場面。苦労をかけたなと妻を労う旦那と、あなたが頑張って働いたから今の生活があるんですよと話す妻。そのうち、妻が「もう、本当のことを打ち明けてもいいかな?」と思うんだよね。ここまで旦那も頑張ってきたんだから、もう話してしまおう。その決意をするシーンがとても美しい。

 

背徳感を抱えながら3年間ずっと旦那を支えてきた妻が、ゆっくりと旦那に真実を語り、ぶたれるんじゃないかと思いながらも自分の思いの丈を伝える場面で胸がいっぱいになる。旦那も最初は「ああ、俺はずっと騙されていたんだ!」と思うんだけど、すぐに考えなおして、自分をずっと支えてきた妻の愛情の深さに気づいて、申し訳のなさと、感謝の気持ちで何も言えなくなってしまう。

 

「そうだ、お酒飲みましょう、あなたずっと我慢してきたんだから」そんな妻の言葉に驚きながらも、よし飲んでやろうとお猪口を手に取る。でも辞めてしまう。今の生活も夢になっちまったら困るからね。

 

オチも美しいけど、夫婦の愛も素晴らしいし、駄目だった旦那が立派な人間になっていくところまで含めて最高の噺だと思う。大晦日にぴったりの、救いのあるストーリーではないでしょうか。