めぐりめぐる。

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三谷幸喜「short cut」感想

 

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中井貴一主演の「short cut」を見たんだけど、すごくよかった。この映画の大筋としては「離婚寸前の夫婦がお互いのことを知るきっかけを得て、少しずつ信頼や関係性を取り戻していく」というテーマになっている。設定は比較的よくあるパターンではある。仕事の上の関係もあるんだけど別居している妻(鈴木京香)の葬式に夫(中井貴一)が付き合わされるところから物語が動き出していく。妻の実家はとても田舎で、車が全然通らないような山の中にあり、電波が届かないので携帯電話もパソコンも使えない。そんな場所で、夫婦の言い争いが始まるところからスタートするんだけど、その掛け合いがとても素晴らしい。

 

中井貴一と鈴木京香の演技がとても自然で、「演じている」ように見えるというよりは「実在する人物を近くで見ている」ような感覚に陥る。会話や仕草の間の一つ一つもよく考えられていて、よくある夫婦喧嘩というやつはだいたい大袈裟にやりすぎるか、やりすぎると思いっきり強くなるので抑揚をつけて演技の幅に収めることをやって「演じております」という雰囲気を出してしまいがちなのだけど、二人の掛け合いは自然で、テンポがよくて、結婚して数十年の夫婦のそれにしか見えない。映画が始まって数十分の間にとても感動した。

 

さらにすごいのは、僕はこの映画を見始めて20分程度ほどどうしても違和感があって気づかなかったのだけど、ノーカットで撮影されているのだ。これが本当にすごい。1時間半ほどの映画がノーカットで撮影されている。つまり中井貴一の演技も鈴木京香の演技も一発撮りなのだ。もう驚くしかない。さっき僕は「実在する人物を近くで見ている」ような感覚に陥る映画だと書いたけれど、その印象をより受けた理由はこの映画がノーカットで撮影されているからだろう。夫婦の間をぐるぐる回り、様々な角度から二人の会話を楽しめるんだけど、飽きることがなく、臨場感がある。あとこれは僕の個人的な部分かもしれないのだけど、ノーカットなので集中力が切れない。よく僕は映画やドラマを見ていて、どうしてもカットが多用されると集中力が切れてしまって、最終的に最後まで映画を見られないことがあるのだけど、この映画は途中休憩せずにじっくり見ることができた。大きな場面の転換がないので、自分の頭の中でストーリーを補完していく必要がない。そこも気に入った。

 

この映画の見所はやっぱり「夫婦が少しずつ打ち解けていく様子が感じられる」ところだと思う。妻は自分の実家の田舎の雰囲気にすっかり溶け込み、夫に全く違う一面を見せる。普段はバリバリ仕事をして、BMWに乗って、夜は高級レストランで食事をしていた嫁が、子供の頃に遊んでいた山に入ることで急に靴を脱いで川遊びを始め、服を破って木に登り、木の実を食べ、湧き水を飲み、走り、笑い、花畑で寝転がって眠り、山の山菜を美味しそうに食べる。ある意味本来の自分を取り戻していく。夫は結婚生活では見せなかった妻の姿を見て驚き、笑い、尊敬し、もう一度結婚生活をやり直そうと決意していく。そんな様子が、1時間半にギュッと詰まった作品、ぜひご覧ください。

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