めぐりめぐる。

落語や漫才を見るのが好きです。エンタメ系の記事を中心に、幅広く書きたいことを綴るブログです。メールでのお問い合わせはこちら「infomeg2@gmail.com」。最近投資系の記事は「http://www.toshi-meguri.net」で書いています。

美容師を飼いたい

「なんか冷静な人っすよね、(精神の)障害あるのに」

 

と僕の行きつけの美容師(結構かわいい)は言った。月に1回しか髪を切らないので滅多に会わないんだけど、随分とこの美容師(結構かわいい、歳下)の子には助けられている気がする。

 

「なんで私を選んでくれたんですか」

 

最初はそんな会話から始まった。今思うとお見合いかな?と思うんだけど、たぶん無意識に客に聞いているんだね。まあ美容師も美容院も数多い中で、「なぜ?」を突き詰めることはとっても大事だと思うので、僕もそれに付き合う形になったわけだ。

 

「スタイリスト歴5年以上、アシスタント歴2年以上あったことかな。あとは容姿」

 

そう言うと彼女は爆笑していた。たぶん店じゃなかったら腹を抱えていたと思う。この子は随分とユニークな雰囲気を持っていて、ちょっと触れると破裂してしまいそうな底抜けの明るさを持ちつつ、まるで精神科の先生のような安定感を兼ね備えている。相反する素質を維持しているのはすごいと思う。

 

あとまあ、僕が一人暮らしが長くなっていたのもあると思うんだけど、付き合っている人はいるんですか?と彼女が質問してきた時はひどく驚いた。よっぽど所帯持ちに見えなかったらしい。いつまでもくすぶってそうな男に見えたのか、やんちゃな奴に見えたのかは今だに怖くて聞けない。まあ実際のところ僕は夫としての生活を一切していないのだし、大きく外しているわけじゃないもんな、と思った。

 

「まーあたし、寝ればだいたいのことは忘れちゃうんで」

 

と笑顔で言うのだけど、僕が言ったことは全部覚えている。僕が話をするまでもなく、離れ離れになっている妻と子供の話や、仕事の話を振ってくれる。仕事に復帰できなかったことを伝えたら、そーなんですねーと流してくれた。とても優しい子なんだと思う。

 

彼女は何と言うか、自分が置かれている状況を冷静に喋る僕がちょっと怖いようだ。

(まあ僕は今鬱気味だし、ひどく感傷的なのもあると思う)

 

精神を病んでいる奴は犯罪をしたり手首を切ったりするし、美容院にきてきちんと1ヶ月に1回髪の毛を整え、眉毛を剃っていかないと彼女はたぶん思っているのだろう。ある意味では正しく、また正しくはないのだけど、説明する義理もなかった。

 

僕が社会復帰できず、ただただ生かされていて、スーパーの野菜を見るだけで農家の人の働きぶりと流通の発達、品出しとパートのおばちゃんの苦労を回想して泣いてしまうと言ったら、考えすぎはだめですねえ、と僕の髪の毛を梳いて払ってくれた。

 

「あたしみたいな明るい人をたくさん集めれば大丈夫っすよ」

 

「がんばるわ...」

 

「ほらほら元気出して」

 

「とりあえず君を指名し続けるわ」

 

「怖っ」

 

僕は怖いようだ。