めぐりめぐる。

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じゃあ俺チェキ食うわ!

「じゃあ俺チェキ食うわ!」

 

なんて勢いがあって素敵な言葉なんだろう。狐娘カフェとかいうよくわからないコンセプトカフェで、僕は隣のおっさんが吐いたその言葉にしみじみと聞き入っていた。

 

世の中にはメイドカフェとか猫カフェとか、まあ人間がロールプレイするコンセプトカフェがあって、狐娘カフェもその一つだ。

 

まあ、すごい適当な店なんだけどね。「あっ耳つけてない」とか言うからね彼女ら。お前ら、不思議な力で山からやってきて、人間の世界に紛れ込んだんじゃないのかよって。暇そうにしている客の前でポケモンGOとかしてオーダー漏らすからね。そりゃたくさんのおっさんのため息も漏れるよ。「じゃあ俺チェキ食うわ!」なんてエモいセリフもでるよそりゃ。

 

僕は狐娘には全然興味がなくて、どちらかというとこのコンセプトカフェに来る人たちは一体全体なんでここにきているんだろうという捻くれた好奇心で何と2度目の訪問をしてしまったところなのであった。

 

一時間席料400円。一時間おきに600円程度のドリンクまたはフードをワンオーダーすればOK。非常に良心的だ。安いし暇が潰れるので正直助かる。2時間いて2000円くらいだからね。でもクレジットカード切ると10%上乗せするのは加盟店違反だからな。そこはちょっと心穏やかじゃないぞ。狐娘だから許しているんだからね。

 

「延長すると〜ワンドリンクかフードを頼まないといけないんです〜」

と赤い巫女服につけ忘れた狐耳をつけた女が言った。おっさんは困っていた。

 

「俺さ、もうお腹もいっぱいだし、飲みすぎてお腹たぷたぷなんだよ。チェキじゃだめ?」

 

「チェキは〜だめなんです〜」

 

無慈悲な狐娘の声。どちらかというと楽しんでいるようにも聞こえた。自分のことじゃないし。お客さんの財布だし。まあ決めてくれるっしょ。そんな感じのニュアンス。おっさんのアンニュイなフェイス。エモい。最高にエモいと僕は思った。

 

そして次の瞬間、おっさんは強烈な一言を放った。

 

「チェキ食えばいんじゃね...?」

 

僕は笑った。超草生える。クサクサの草。もはや大草原。薄 ( すすき )の生い茂った草原がゆらゆら揺れる情景が思い浮かんだ。最高に綺麗な光景だった。

 

「じゃあ俺チェキ食うわ!」

 

おっさんの決心に僕は大爆笑した。狐娘は全然笑ってなかったけど。なんでなん。超面白いのに。お前な、40すぎたおっさんの決心を軽くとるんじゃないよ。まあ僕は笑ったけどね。猛烈に笑ったけどね。

 

「チェキは...食べちゃダメですよ!」

 

コミュ力が足りてない狐娘が言った。自分のコンセプトもわかってないくせにね。そういえばお前尻尾忘れてるぞ。他の狐娘尻尾あるぞ。青い巫女服を着たリーダーがちょっとこっち見てるぞ。気づけ。山に帰らされるぞ。お前金欠とか言ってなかったか。

 

そしておっさんは結局帰った。僕はしばらくその余韻に浸った後、店を出ることにした。たぶん、また行っちゃうと思う。